ああ、もう駄目だ。
 小野塚小町は心の中で涙を流しつつ悟った。
 後方には三途の川。前方には冷ややかな視線の上司。
 逃げ道はゼロ。
 ―――此は何事?
 心の中で誰かに問うが、当然答えは返らない。
 穏やかな緑と花に包まれた、亡霊の集う川岸は今や処刑場と化している。
 というか立っているだけで、針のむしろに包まれて剣山を歩いている気分だ。

「さて。言いたいことは、分かっていますね?」
「は、はい……」

 不機嫌そうな声。明らかに閻魔様は怒っておられる。
 小町の背筋を冷や汗一つが伝う。声だけでぞくりとした。
 そんな小町の震える子猫のような挙動を意に介さず、閻魔大王・四季映姫はぱらりと閻
魔帳をめくった。その内容を見て、思わず眉をしかめる。小町が身をすくませた。

「……一応、これで今日の仕事はお終いだけど、残ってる幽霊の数が多いのよね。他の同
僚と比べて。二倍近く。私の裁判自体はすぐに終わっているのだけど……ということは」
「は、はいっ!?」
「……まぁたさぼってるのね、あなた。まったく」
「ええ、ああ、いや、ですがそれには理由がありまして……」
「どうせまた亡霊と世間話でもしてたんでしょう。もしくは花の異変を解決しにきたあの
子たちと遊んでたのかしらね」
「う」

 あっさりばれた。まさに地獄耳。おまけで千里眼と石化の魔眼も持ってそうだ。
 顔色が蒼白を通り越して緑色になりそうな小町を見ながら、映姫はもう一度ため息をつ
いて閻魔帳を閉じた。

「やはり、あなたは言い訳をしすぎる。ということで」

 かたん、と映姫が立ち上がった。その手には錫。
 かつん、と槌を落とすような音が響いた。

「判決……貴女は磔刑よーーーーッ!!」
「いやそんないい加減なってうわキャラ変わってますよそれーーーー!?」

 その一言で空気が一変した。なんかドーンとかゴゴゴゴゴとか聴こえてきそうな具合に。
 弾幕裁判の始まりである。被告はもちろんサボり死神。

「ひええやめてください死んじゃう死んでしまいますー!?」
「死なせるのよ」
「言い切ったー!?」

 駄目だ。説得なんて出来やしない。さすが閻魔様。そこにシビれる憧れない。
 ひゅんひゅんと風を切って飛んでくる錫を必死に避けつつ、小町は泣きつつ飛翔する。
 とにかくどこかに逃げなければ、この方との弾幕ごっこは死を意味する―――!

「とりあえず自由と行楽への逃走ッ……って、えええ!?」
「ドミネ・クオ・ヴァディス……どちらへ行かれるのかしら。
 まだお仕置きが終わってませんよ、小町さん」

 黒い翼を持った黒い服の少女。それが、何時の間にか小町の前に出現していた。
 ついでに、なんだかそこはかとなく無気味な空間も。黒く渦を巻いている。

「り、りりー、ちゃん?」

 本来は春の妖精だが、映姫の持つ「白黒はっきりつける程度の能力」により、春限定の
お手伝いとして使役されているのだ。だからその色も黒い。

「言ったじゃない、磔刑って。―――殺れ」
「イエス・サー」

 にっこり笑って命を下した映姫に、春の妖精は肉食獣の如き笑みで応えた。愛らしさが
微塵も失われないのが逆に恐ろしい。
 そして、刑は執行される。
 リリーが弾幕を放ち、黒い空間を通り抜けた瞬間。

「みぎゃーーーーーっ!?」

 無数の錫が、小町へと降り注いだ。




「……し、死ぬかと思った。というか死んだ。あたいは死にました……」
「死神が何言ってるの。本当のお仕置きはこれからよ。貴女用の特別仕様」
「ふえぇ!?」

 半泣きになりつつ呆然と呟く小町に、映姫は淡々と致命的事実を突きつける。
 お楽しみはこれかららしい。マジですか閻魔様。いつから地獄の鬼に宗旨替えを。
 ちなみに逃げ出そうとしても逃げ出せないのは、全身を錫で縫いとめられているからだ。
 驚いたことにそれらは服の裾やら何やらにしか刺さっておらず、身体に傷は一つもない。
 その圧倒的な力量差に、小町はもう諦めた。
 どうか五体満足でいられますように、とだけ祈る。

「な、何をするんですか一体………」
「そうねぇ……ここは古式ゆかしくいってみようかしら」

 映姫は一人で何か頷くようにしながら、はりつけ状態の小町を引っぺがして、正座して
膝の上に載せた。ちょうど小町が腹ばいの状態となるかたちだ。

「え、だから何を……きゃんっ!?」

 小町の不安そうな声は、途中から可愛らしい悲鳴に変わった。
 ぺろん、と腰までスカートをたくし上げられたためだ。

「だ、駄目ですよぉ映姫様!! こ、こんなのって……!!」
「言ったでしょ、これはお仕置きです」

 スカートから零れ落ちたのは形のいい柔らかな双丘。下着はつけていない。
 小町は耳まで赤くして抵抗するが、しっかりと押さえられているため手足をじたばた動
かす程度にしかならない。

「あああっ、駄目です、亡霊の皆さんにまで見られたら……!!」
「いい薬です。しっかり反省しなさい」
「そ、そんな……きゃんっ!?」

 ぱしーん、と快音が響いた。
 映姫の手首を利かせた平手打ちが、白い肌に紅葉の形をした跡を残した。
 当然、それ一回では終わらない。
 二度、三度と何度も叩く。

「うあっ、あっ、痛っ、あうっ……こ、こんなの恥ずかし、きゃうっ!」

 ぱしん、ぱしん。
 映姫の腕が振り下ろされるたびに、痛みが走る。小町はじんじんと響くその熱さに身を
震わせながら、必死で耐えている。しかし、次から次へと冷めるまもなく与えられる痛み
に、結局は苦しげな声を上げてしまう。

「痛っ! ……す、すいません、はうっ! もうしませんからぁ……あああっ!」

 無駄だと解っていても、懇願する。だが、やはり手は止まらなかった。
 彼女は、本当に心から反省するまで、罰を与えるのを止めない。
 口先では騙せないからこそ、閻魔様なのだ。
 だから、叩く音はまだ続く。



「ほ、ほんとにっ、さぼったりし、ません、からっ! もうっ、もうっ……はうっ!!」
「駄目です、まだ償うには足りません」

 ……いったい何度叩かれたのだろう。
 白く艶やかだった双丘は、濃く紅を差したように痛々しく染まっていた。
 もう痛みなどすっかりなくなって、おしりにはただ焼けそうなほど熱い感覚しか残って
いない。完全にしびれてしまっている。ただ、叩かれる衝撃だけしか感じていない。

「ふぅんっ、あ、はっ、くぅっ……んっ! や、痛っ、あっ……あっ!」

 ……不思議なことに。

(な、なんで……あたい、おかしくなっちゃったの?)

 小町は、自分の体の異常に気がついた。
 身体の中が熱い。お腹の下あたりがじんじんする。
 頭の中がくらくらとして、全身がぴりぴりと痺れてきている。
 はっきり言ってしまうと、おしりを叩かれて、感じてしまっている。

「やぁっ、駄目、駄目なのにぃっ……ひぁ、は、んあっ!」
「……効いてるかどうか良くわからない反応ね。もう少し強くしてみましょうか」
「あ、駄目ですそんな………きゃんっ!? は、ああ……っ!!」

 一際強く叩かれて、小町の体が跳ねた。
 甘い痺れが叩かれた部分を中心に広がり、視界が一瞬白く染まる。
 軽く、達してしまった。
 太ももを熱い雫が伝うのに、そう時間はかからなかった。
 そのことが、とても怖い。



「あうっ、お、お願いです、ひっ、もうこれ以上はぁっ……!!」
「駄目です。まだもう少し続ける必要がありますよ」
「そ、そんなぁ……おかしくなっちゃいますよぉ……!!」

 というよりも、すでにおかしくなってしまっている。
 映姫は気づいていないが、すでに小町の秘部はとろとろに濡れていて、切なそうに快感
を訴えて震えている。包皮の奥の花核が、叩かれるたびにぴくんと艶かしく動いている。
 もう、限界だった。
 頭の中は真っ白。我慢も抵抗もできない。
 もはや全身をその快感に支配されてしまって、

「あああっ、駄目っ、駄目ぇっ、きゃううううううううううううんっ!!」
「きゃあっ!! ……ちょっと、小町!?」

 そこに追い討ちをかけるように強く叩かれ、それでとうとう達してしまった。
 いきなり爆発した快楽に思わずのけぞり、その激変に思わず映姫が悲鳴を上げる。
 びゅくっ、っと射精するように愛液が蜜壷から吐き出された。
 必死で堪えていた意識が吹き飛んで、全身を熱い痺れが駆け巡る。
 そして息をつく間もなく、小町の意識は暗転してしまった―――




「……あう?」
「良かった……小町、大丈夫? いきなり気絶したものだから……ごめんなさい、ちょっ
とやりすぎちゃったようね」

 気がつくと映姫の顔が目の前にあった。ひどく心配そうな表情をしている。
 どうしてこんなことになっているのか。ぼんやりとした頭で思い出そうとして、
 一気に目が醒めた。

「ひゃ、あ、あの、その!!」
「もう怒ってませんから落ち着きなさい。……もうおかしいところはない?」
「あ、はい……なんとか」

 あまりの変わりように唖然としつつ、小町はこくこくと頷いた。
 お尻の方から伝わってくるぞわぞわした感覚は口にしないでおいた。
 ……たぶん話がこじれる。

「そう……よかった。でも大事を取って明日はゆっくり休んでおきなさいね?」
「え、あれ、いいんですか?」
「いいのよ、十分に休息を取るのも立派な善行です。自分を大事にできない人が他人を大
事にできるはずないでしょう? もう少し自分をいたわること。それが今必要な善行です
よ……それに、私の方にも責任はありますから、ねぇ」
「……はい、ありがとうございます」

 まあ、一応は結果オーライだろうか。
 苦笑交じりで優しく告げる映姫に、小町は頷いた。




「……それで、なんで以前よりサボりの回数が増えてるのかしら」
「え、えっと、それは………癖に、なっちゃって………」
「………はい?」

 どっとはらい。






SS:世界爺さま
絵:村人。

世界爺さま原案のお話でした。ありがとうございますーっ!
そもそもなぜおしりぺんぺんの話がでたかというと……東方SSこんぺ。テーマが「紅葉」なのです。そう、それで世界爺さまが「おしりぺんぺん」を発案してくださったのです! なんたる神発想!
それを聞いた瞬間にお絵かき掲示板に描くことを決定して、その5時間後には書きこみ終っていました。恐ろしいことです……!
感動感謝☆