はあ……はあ……
 空気が重い。
 高速で飛び続けるときの空気の抵抗力というのは実際、地上で静止している状態から想像するよりはるかに強い。空気のような存在と呼ぶ場合、通常はあってもなくても変わらないようなものということを意味するが、この状況下においては空気こそが最大の敵なのだ。
 だが魔理沙にとってみれば、こんな空気抵抗は慣れたもののはずだった。決して無にすることはできないが、空気に負けるほど鍛錬が足りなくはない。
 それが、今日は、とても重い。
「……っ、は……あっ……」
 粘りつく空気が全身を容赦なく襲う。魔理沙は苦しそうに表情を歪め、少しでも抵抗を小さくするようにとより体を前倒しにする。
 止まるわけにはいかない。すぐ後ろにも横にも弾幕が展開されているような、そんな戦闘下で動きを止めるようなバカなことはできない。
 とはいえ――
「く……っ」
 攻撃に転じなければいけない。魔力を集中させる。――すぐに頭の奥のほうが真っ白になるような「波」が襲いきて、集中は簡単に霧散する。
「あ……く、あ……ぁああ……んっ!」
 びくん、と全身を痙攣させて、堪えきれず、叫ぶ。
 箒の上で、二度、三度と、体を丸くして、その波を耐え忍ぶ。
「んん……んふぅ……ッ!」
 じわり……
 奥底から、また熱い粘液が滲み出る感覚。それはとうに下着が押しとどめられる量を超えており、ローブも、さらに今座っている箒までもはっきりと濡らしていた。
 びくんっ
 もう一度。魔理沙は目を閉じて、歯を食いしばって、耐え切る。ぎゅっと箒を掴む。
 もはや戦えるような状態でないことは明白だった。朦朧とする頭の中は、はやくめちゃくちゃにそこを弄りたい、もっと気持ちよくなりたいという本能だけに支配されようとしていた。既にもう、少し気を抜けば、無意識のうちに腰を振って、箒に擦りつけている。戦闘中だというのに。
 下着の下で、クリトリスが硬く勃起しているのが、もう触らなくてもわかる。熱く熱く充血していて、少し体を動かすとぬるりと濡れた下着の表面に擦れ、甘美な快感を走らせる。そのたびに漏れ出る掠れた喘ぎ。声を抑えることもできない。
 戦わないと。
 攻撃しないと。
 脳に浮かぶそんな言葉だけが、魔理沙の最後の抵抗。その言葉を、しかし、決して実行はできない。
 魔理沙のすぐ隣を、弾と化したお札が通過していく。
「ふぁ……っ」
 その風圧だけで、もう、まるで何本もの手で指で全身を弄りつくされたかのような感触になる。
「あ、あ、や……また……っ!!」
 きゅうっ、と全身を駆け巡る波。ほんの少しの動きの乱れが、また絶頂へのスイッチを入れてしまう。何度も、何度もあったように。止めることは出来ない。ただ、少しでも快感を軽減してしまうようにできるだけ。
 足元から脳まで、快感が急速に上ってくる。
 体の表面は痺れ、中は燃えるように熱い。
「や、だ、だめ……う、あ、ぁ、あ、あああ――んッ!!」
 だけど、もう。
 限界だった。
 このまま中途半端に耐えると、発狂してしまうかもしれない。このまま、駆け上がってしまいたい。

 屈服した。
 魔理沙は高度を下げると、箒に腰掛けていた姿勢から、箒にまたがる姿勢に変える。
 その瞬間に、充血した突起が、くりん、と箒の硬い柄に擦れあい、潰れて、包皮が剥ける。それまでと比較にならないほど強烈で直接的な性感が全身を駆け巡る。
「あ、あ、んん、ああああああッ、イ、イ……ッ! ん……んんんんあああああああああッ!!」
 もう視界には何も映らない。
 ただ一心不乱に、必死に、高みを目指して、腰を振って、箒に擦りつけ、叩きつけ、圧迫して、もっと気持ちよくもっと激しくと追い求める。
 ずりゅ、ずりゅ、と濡れた音。ぬるぬるに濡れきった箒に、突起を叩きつけ、割れ目を擦りつける。空を飛んでいる途中だとか、戦闘中だとか、そんな事実ももはや何の抑止力にもならない。
 登りつめる。
 目を閉じ、だらしなく口を開けっ放しにして、乱れ続ける。
 両手で箒をしっかり握り締めて、腰だけを夢中で動かし続ける。
「イ、ぁ、イ……く……ッ……」
 真っ白になっていく。このまま、脳が焼き切れてしまいそう。これまでどれほどまでに追求しても決して届かなかったほどの、遥かな高み。
 気持ちいい、どころではない。狂ってしまう。だけど止まれない。
 魔理沙は最後に、手を箒から離して、体全体を使って箒を抱え込む。抱きつく。
 股間に強く押し付けた箒をさらにぐっと引き寄せて、内股に力を込めて、箒を思い切り締め付ける。
 ぎゅー……っ、と全身が締まって。
「……っ! ぁぁあああああああ……ッ!! あ、ぁうあ……ッ!!!!!」
 びくん……っ!
 跳ねる。
 二度、三度。
「あ、あ、あ、ああぁっ! ぅぁッ……!」
 落下しながら、何度も何度も絶頂を迎える。
 何度も何度も――
 声も枯れそうなほどに叫び、これ以上はあり得ないとさえ思えるほどの強烈な性感。
 しかし。
「……っはぁ……っ……や、いや……もっと……もっと……っ!!」
 絶頂のたびにひくひくと膣内がざわめき、そこにも新たなる刺激を求める。だけど箒は表面を擦るばかり。
 何度イっても、何十回と続けても、このままでは、まだ足りない。
「あ、あ……あ……もっとぉっ」
 強く強くさらにお尻を前後左右にめちゃくちゃに振って箒の愛撫を求めるが、決して膣内の欲は満たしてくれない。箒は自慰の相手にはなってくれても、性交の相手にはなってくれない。
 このまま箒の先を突っ込んでかき回してしまいたい。そんなことをすると本当に墜落してしまうだろうが、そんなことはもうどうでもいい。魔理沙は震える手を箒の先端に伸ばし――

「そこまでよ」
 すぐ横から、唐突に別の声。
 横から伸びた手は、魔理沙の体を箒ごと捕まえ、そのまま強い勢いで飛び続けていた魔理沙を引っ張り、方向を変える。
「……ッ!」
 ぶるッ
 魔理沙は新たに与えられた体温と刺激にまた、悦びに体を震わせる。
 ――直後には、こつん、という音が聞こえ、全身に一気に重力が戻ってきた。魔理沙は、全体重を先程の声の持ち主、霊夢に預ける形になる。とっくにもう地面に激突する直前だったのだ。
 魔理沙はうっすらと目を開いて、とろんとした涙目で霊夢を見上げる。
 ――そして、霊夢の冷め切った目をまともに見てしまう。
「あ……いや……」
「気持ちよかった?」
「……っ!」
 びく、と、また魔理沙の体が跳ねる。
 ぎゅっと目を閉じる。けれど、耳まで塞ぐことはできない。
 霊夢の声が少し近づく。
「私が見てる前で、箒なんかでオナニーして、気持ちよかったの?」
「やっ……」
「よかったんでしょうね。私のところまで聞こえるくらいよがって。あんなに獣みたいに腰振って」
「……く……の、呪いのせい……だ……」
 消えてしまいそうな声で、それでも魔理沙は、必要な反論だけは、する。
「そうでしょうね。とっても気持ちよくなるお札だし」
 霊夢は、意外なほどにあっさりと認めた。
 魔理沙は勢い込んで、うんうんと強く首を縦に振る。今あった出来事は全て呪いのせいであって魔理沙の地ではないと。
 しかし。
「でも残念。理性を失わせるものってわけじゃないから、気持ちいいからっていきなり目の前でオナニー始めちゃうのは、魔理沙がそういう子だからよ」
「……! 違う……! 絶対……」
「そうかしら」
 霊夢は呟くと、魔理沙をゆっくりと地面に下ろす。
 魔理沙はほとんど体力を使い果たしていてふらふらだったが、なんとか両足で地面を踏みしめ、崩れ落ちないように踏ん張る。こうしている今もまだ、体は熱く火照って次の快楽を待ちわびて痺れている。
「ん……っ」
 そうしてなんとか立った魔理沙から、霊夢は箒を奪い取る。
 そして、箒を目の前に掲げ――魔理沙が先程まで座っていた部分に顔を近づける。そこはべとべとに濡れており、黒く変色していた。
「あ……や……」
 魔理沙は羞恥に震えた涙声で、霊夢の行為に抗議する。
 霊夢は黒くなっている部分をじっと見つめて、くんくんと匂いをかいでから、魔理沙に微笑みかける。
「この様子だと、この箒が相手になるのはさっきのが初めてってわけでもなさそうねえ」
「……!!!」
「あら図星みたい」
 真っ赤になって俯く魔理沙を横目に、霊夢は――箒のそこを、ぺろりと舐めた。
 見せ付けるように、何度も、わざと舌をいやらしく動かして。
「……! っ……」
 魔理沙の体がまたびくん、と跳ねる。
 体には直接は何もされていないのに、まるで霊夢の舌が魔理沙の体を蹂躙しているような、錯覚。
「んむ……ちゅ……ふふ、魔理沙の味……」
「れ……霊夢……」
「いやらしい匂い……味……じゅる……」
「霊夢……! お、お願い……このまま放っておかれたら、私……」
「ん? ちゅぷ……ん、お願いがあるなら……ん……ふ……ちゃんと言わないとわからないわよ?」
 執拗に舌で箒を犯しながら、霊夢は魔理沙を片目で見やる。
「……して」
「……」
「……お……犯して。めちゃくちゃにして! アソコに早く……突っ込んでぐちゃぐちゃにして……!」
「うわ、変態」
「……っ」
 思い切った告白にも一言で返されて、絶望的な表情を浮かべる魔理沙。
 霊夢は、しかし、にこりと微笑む。
「なんてね。冗談よ。よく言えたわね」
 箒を顔から放して、手に持って、魔理沙に一歩ずつ近づいて。
 ぽん、と肩を叩いて。
 ぱっと喜びに顔を輝かせる魔理沙に、霊夢は言い放った。
「でも駄目。してあげない」
「……! そ、そんな……」
「罰ゲームはまだ終わりじゃないもの。魔理沙の言うこと聞いてたら罰にならないでしょ」
 一度持ち上げられた気持ちを再び突き落とされて、魔理沙はまた泣きそうな顔で目を伏せる。

 ――罰ゲーム。
 いつものように魔理沙が霊夢に挑戦しにいっただけだった。本当は。
 霊夢は何を思ったか前回に限って、いつもだらだら戦い続けるだけじゃ面白くないでしょ、と一度魔理沙の誘いを断ったのだ。そして、負けたほうが次の戦いのときちょっとしたハンデを背負って戦うことにする、という提案を出した。過去霊夢が負けたことはない以上、実質的に魔理沙に不利なだけの提案だったが、そのまま帰るのもつまらないと、承諾してしまったのだ。
 そして、今日に至る。

「今日はそのまま帰ってもらうわ。まだ終わりじゃないからね。明日の朝になるまで絶対何もしちゃ駄目。自分で触るのも禁止、誰かにしてもらうのも禁止。いいわね」
「……そん……な……無理……」
「心配しなくていいわ。日付が変わる頃には効果切れるから。あとたった8時間ほどよ」
 にっこり。
 まるで天使のような無垢な笑顔で。しかし悪魔の宣告のような言葉。
 はぁ……はぁ……
 荒く息を吐きながら、時間がたつごとに収まるどころかますます燃え上がっていく肉欲をなんとか抑えようと力を込める。そんな魔理沙に、霊夢は箒を握らせる。
「じゃあね。帰っていいわよ」
「……」
 その言葉に、間違いなく霊夢が本気だと悟る。
 くるりと背を向けて本当に歩き出す霊夢の背中を見つめながら、顔をゆがめて、泣いた。







 疼く。
 頭に霞がかかったような状態で、視界もブレ続けている。とても飛んでいられる状態ではない。
 極度に疲労したまま飛び続けるときと似たような症状だが、しかし身体のほうは、眠りに落ちそうになるどころか覚醒する一方だった。
 くちゅ……
「っは……ぅ……」
 ほんのわずかに姿勢を変えたり、揺れたりするだけで、擦れて、刺激されてしまう。
 最初からもう、帰って寝るまでずっと我慢するなどという選択肢はなかった。
 今はただ、せめて魔法の森まではとギリギリのところを耐えながら飛び続けている。森に着いたら、ほんの少しだけ触って少しでも落ち着かせてそのあとゆっくり帰ろう。それだけを考えている。
 森へ。
 少しでも早く、魔法の森へ。
 森が視界に見えたときにはもう、とにかく降りて早くなんとかしたいという気持ちしか残っていなかった。





「え……」
 アリスは偶然、森の出口近くまで来て、少し特別な木の葉を集めているところだった。
 近くで物音がして、何かの気配を感じたので気になって来てみると――
 そこで、見つけた。
 よく見知った黒い帽子と、黒白の服に身を包んだ彼女。魔理沙の姿を。
(な……なんなの、これ……)
 アリスはすっかり固まってしまう。
 魔理沙は木を背にしてもたれかかって、左手でスカートを思い切り捲り上げて、下着姿を露にしていた。
 そして右手は――明らかに下着の中に潜り込んでいた。それも、かなり激しく動かしている。
 その行為が何であるかは、信じがたいことではあったが、明白だった。目をとろんと虚ろにしながら顔を真っ赤にし、開きっぱなしの口から絶え間なく切ない喘ぎ声を漏らす魔理沙の様子を見れば、もはや疑問の余地はない。
 アリスは大木の背に隠れ、魔理沙の様子を覗き続ける。
 まだ頭はパニックになっていた。まず何がおかしいのか何に驚いているのかさえ整理がつかないほどに。
 何かを考えようにも、魔理沙の声が絶え間なく聞こえてきて、思考を乱し続ける。
「……! っ……や……が、ガマン……しな……」
 話している言葉も、微かながら聞こえてくる。
 ただ喘いでいるだけでなく、何か独り言が混じっているようだ。
(魔理沙……)
 まず何より、魔理沙がそんなことをするとはまったく思っていなかった。そんなイメージはまったくなかった。だからこそ、いつも魔理沙を想い自分の体を慰めた後、こんなだから魔理沙は振り向いてくれないんだと自己嫌悪に陥っていたのだ。決して止めることはできなかったにしても。
 だというのに、これはいったいどういうことなのか。
「ぁ、ん……ふぅ……っ」
 あんなに激しく乱れて。森の中とはいえ屋外で、しかもまだ日も沈んでいない。見せたがっているのかと疑ってしまうような状況だ。
(あんなに……気持ちよさそうに……)
 ごくん。
 無意識のうちに唾を飲み込む。
 混乱が少しずつ収まってくると、次第に、どくん、どくんと自分の動脈が暴れだすのを感じる。目が離せない。
 想い人が目の前で独り自慰に耽りいやらしく乱れる光景を見つめながら、アリスもまたその熱に当てられたように体が火照ってくるのを感じる。
「や……ぁ、とまらない……や……んっ……たすけ……っ」
(あ……)
 ぶるっ、とアリスの体が震える。
 どくん。どくん。
 ますます速くなる鼓動。
(魔理沙が……求めてる……欲しがってる……)
 助けて、と言ったのが確かに聞こえた。
 あれほど感じて淫らに体をくねらせているのに、まだ、足りていないのだ。もっと、決して自分自身の手では届かないような領域を求めている。
(もし、私がここから出たら……?)
 逃げるだろうか。
 求めてくれるだろうか。
 後者ならば、まさに思ってもみなかった夢のような展開だ。早すぎるほどの。
 怖い。見られていることを知った魔理沙は、二度とアリスの前に顔を出さなくなってしまうかもしれない。そんな可能性もある。躊躇う。
 しかし、確実に魔理沙は、求めていた。それならば、応えてあげるべきなのではないのか。何より、アリス自身、最後まで黙って覗き続けられる自信があるとは言い切れない。
 ぎゅっと目の前の木を掴み、熱くなり続ける体を感じながら、葛藤を続ける。
 形は正常ではないが、魔理沙と結ばれるという、いきなり降って沸いた機会であることに変わりはない。
 息が荒くなってくるのも感じる。
 迷うことなどない、このまま襲ってしまえばいい。立場はこちらが有利だ――そんなことさえ思ってしまう。
 一歩だけ。
 足を踏み出した――とき。
「……ん……ふぅ……もっと……おねがい……れ……む……霊夢……ッ!」
(――っ!!)

 その瞬間に、完全に思考は吹き飛んでいた。

 アリスは、大きな音を立てて木陰から前に出る。
 躊躇なく魔理沙に向かって歩く。
 行為に没頭していてしばらく気づかなかった魔理沙も、やがてアリスがほとんど目前、手を伸ばしあえば触れ合うほどの距離まで近づくと、ようやく焦点の合わない目をアリスに向ける。
 虚ろで澱んだ目が、アリスを目の前にして、少しだけ動揺したように理性を取り戻す。慌てて下着の中からべとべとになった手を抜き出し、捲り上げていたスカートを下ろす。
「ぁ……アリ……んふっ!?」
 名前を呼びかけた魔理沙の言葉も最後まで聞くことなく、アリスは最後の一歩まで勢いを落とさず近づき、魔理沙の顔を両腕で挟み込んで、僅かな間さえ挟まずに、強引に唇を重ねた。
「んんん……んんーーーっ!」
 魔理沙は両手でアリスの体を押しのけようと抵抗するが、まったく離れない。もともとの体格の差がそのまま効いてくるうえに、魔理沙にはもうほとんど余力が残っていなかった。
 アリスは構わず舌を出して、魔理沙の唇の間にねじ込む。
「……! っ!!」
 唇の裏、歯の表、裏、舌。アリスの舌が無遠慮に魔理沙の咥内を蹂躙していく。
 ぬるり、触れ合う舌同士。敏感な先端から奥のほうまで、全てを奪いつくすように舐め、吸っていく。
「ん……んんふ……」
 魔理沙の手から、力が抜ける。
 鼻声も、抵抗し非難するそれから、艶のある悦びの声に変わっていく。
 まだ呪いの効いている体では、性的な快感は何倍にも増幅されてしまう。気持ちに抵抗があっても、直接的に性感帯を弄られてはひとたまりもない。
 じゅぷ……じゅるん……
 舌の周囲をなぞるように舐め、ときには自らの咥内に誘い、吸って、唇で扱く。
 唾液を吸いながら、舌の先端をつつく。
 にゅぷ……ちゅ……じゅる……
 こうなってしまうと、舌はもう性感帯どころではなく、性器そのものだ。攻めを受けるたびに意識は朦朧としていくが、感覚は敏感になっていく一方。
「ん……んーーーっ!! ん……ッ!!」
 それを、何度も、何度も、続ける。キスなどというものではない。口だけを使った、紛れもない性交。アリスの執拗な攻めに、これだけで魔理沙は何度も軽く達していた。
 何分も続けて、やっと、アリスは顔を離す。
 口の周りは唾液でべとべとになっていた。
 お互いに激しく呼吸をして、不足していた空気を一気に取り戻していく。まだすぐ近くにあるお互いの顔に、熱い息が吹きかかる。
 アリスは濡れた瞳で魔理沙の顔を見つめる。魔理沙の顎を左手で持って、くい、と持ち上げる。右手を腰の裏に回してぐいっと引き寄せる。
「……どう? 感じたでしょ?」
「……はぁ……はぁ……あ……アリス……」
 魔理沙は、目を逸らすことができない。
 とんでもない場面を見られたという羞恥よりも、アリスの今の行動に対する戸惑いよりも、もっと強く、今のアリスの強烈な愛撫に、かつて経験のないほどの官能的なキスに完全に魅了されていた。
「わかってるでしょ……こんな、恥ずかしいことしてる貴女を、愛してあげられるのは私だけ……ここまで感じさせてあげられるのは私だけ。余計なことは忘れて。私だけを見て、感じて……」
「――ぁ」
 アリスの腕の中で、魔理沙は今度こそ完全に脱力した。

「アリス……」
 魔理沙が、頭を撫でているアリスの目を見上げて言う。
「ん?」
 アリスは、先程までとはうって変わって穏やかな目で魔理沙を見つめ返す。
「……して」
 熱く熱く燃え続ける身体。
 抱き合っていることで、さらに強く燃え上がっていく。抑えなど到底効かない。
 アリスはまた、魔理沙の顔を持ち上げる。
「魔理沙があんまりエッチだと、優しくはできないかもしれないわよ?」
「優しくなくていい……思い切り……いっぱい、して」
「……素敵。本当、可愛いわ、魔理沙。いくらでも愛してあげる。これから――」
「――悪いけど、そうはいかないのよね」
「……っ!?」

 あまりに唐突に、その声は空から降ってきた。
 そちら側を向くまでもない。聞きなれた声だ。
 腕の中でびくっと怯える魔理沙の様子を確認してから、きつく上空を睨みつける。
 今一番会いたくない、見たくもない相手だった。
 彼女は、いつものように、憎たらしいほどの余裕で空をふわふわと飛んでいた。

「ルール違反。わかってるでしょ、魔理沙」
 彼女はむしろ微笑んでいて。
 魔理沙は、顔を上げようともしない。アリスの腕に抱かれて、小さくなっていた。
「――ッ! あなたが! 魔理沙をこんな目にあわせたのね……!」
「まあね。でもそんな睨まれることじゃないと思うなあ。あんたはむしろ私に感謝してもいいんじゃないかしら」
「……っ」
 しれっと言ってのける霊夢を、さらに強く厳しく睨む。
 目だけで射殺さんとばかりに。
 アリスは腕の中に魔理沙をぎゅっと抱え込む。
「ああもう。本気にならないの。ちょっとしたゲームなんだから。今日だけの遊び。あんたはそれにちょっと巻き込まれちゃっただけよ」
 アリスは魔理沙のほうに向き直る。
 魔理沙は、苦しそうな表情で、しかし首を縦に振った。アリスは眉を顰める。
「そういうこと。で、今日の間は絶対に触ったり触らせたりしないことってルールだったんだけどね。堂々と破っちゃったから――お仕置、しなきゃね」
 霊夢はふわりと近づいてくる。
 アリスは――ばっと魔理沙を後ろに庇い、その進路に立ちはだかる。
 やはり厳しい視線で霊夢を射抜きながら。
「でも、魔理沙を苛めるのは絶対に許さないわ。魔理沙は、私が守る」
「……いい。アリス、やめろ。霊夢の言うとおり、ルールはルールだ」
「黙って。誰にも貴女には手出しをさせないわ」
「……無理……だ。アリス、お前じゃ」
「黙ってって言ってるでしょ!」
「……愛されてるわねえ。たいしたもんだわ。でも、私達の遊びに割り込まれると困るのよね――」
 ひゅんっ。
 ――かつん。
「……!?」
 完全に不意をついたつもりで放った2体の人形による剣の突撃は、霊夢が何気ない仕草で振ったお札1枚に絡み取られていた。
 その次の瞬間には霊夢の姿が消えて――
 気付いたときにはアリスの体は宙を舞い、何度も回転して、木に叩きつけられていた。
 まったく何も、見切ることができなかった。
「が……っ!」
 木にそのまま磔になる。服に刺さった2枚のお札によって。
 慌てて体勢を立て直そうとするが、がっちりと木に縛り付けられていて、まったく身動きがとれない。
 勝負にならなかった。始まる前からもう終わっていた。
 これでは、守るも何もない。魔理沙の言うとおりだった。
「く……」
「そこで大人しく見学してなさい。別に殺したり食べたりするわけじゃないんだから、そんな目しないで」
 くるっと身を翻して、霊夢は魔理沙の前に立つ。
「さて」

「寝るまでどころか、帰るまでもガマンできなかったのね?」
 魔理沙を、穏やかな口調で諭す。
「……最初から、予定通り……だろ」
「ん。まあ、耐えられるなんて全然思ってなかったけど。でもあの子を使うなんてねえ。予想外だったわ」
 ちらりと後方のアリスを横目で見て。
 アリスはぐぐっと身体を乗り出そうとして、やはり動かなくて諦め、叫ぶ。
「わ……私が襲ったのよ。無理矢理……!」
「あら。あんなにイチャイチャしてたくせに不思議なこと言うのね」
「……」
「面白いわ。うん、やっぱり、あんたに見てもらうのがちょうどいいお仕置かもしれないわね。――魔理沙の本性をね」
 くすくす。
 霊夢はまさに名案を思いついたとばかりに、笑う。
「ま、それでもお仕置にならないかもしれないけど」
「……」
 霊夢は、上気した顔を俯かせる魔理沙の頬に、そっと触れた。







「く……」
 ぎち。
 ぎち、ぎち。
 なんとかこの囚われた状態から脱しようと足掻くが、お札はがっしりと服を貫通して木に深く刺さり、びくともしない。こんなことならばいっそすぐに破れる服にしておけばよかったと思う。
「こらこら。もう、落ち着きの無い子なんだから」
 霊夢はアリスにそれだけ言うと、魔理沙の後ろに回りこんで、その身体を捕まえる。
「魔理沙を愛してあげたいんじゃないの? それならまず、大人しく見て知っておいたほうがいいと思うな」
 霊夢は魔理沙の耳を、表面に触れるかどうかくらいのタッチで軽く撫でる。
 それだけでがくがくと震える魔理沙の身体。
 霊夢は魔理沙の身体をアリスの真正面に向けて、それをあからさまに見せ付ける。
「ほら、しっかり見てあげなさいよ?」

 魔理沙の身体を支えながら、両腕でふとももを持ち上げ、ぐっ……とゆっくり開脚させる。そのまま腰を前に突き出させて、ちょうど女性器の部分を一番前に押し出して、見えやすいようにする。アリスから。
 めくれ上がったスカートの奥に、すでにねっとりと愛液が染み出して完全に奥が透けている下着が姿を現す。
 粘っこく白濁した液は下着の上に貼り付いているのみならず、つつ……とふとももからお尻にむかって垂れ落ちている。
「あ……や……」
 魔理沙は両手で顔を覆い隠す。既に抵抗する力は無い。
「……」
 ごく。
 アリスは一瞬、拘束に抵抗するのを忘れる。
 いけないと思いつつも、魔理沙のそこにしか目がいかなかった。そこは、細く小さい身体に見合わず、あまりに淫らに快楽を主張していて。
 見ている間にも、また。
 じゅわ……と新しい愛液が染み出し、表面を泡立てていく。魔理沙は恥ずかしそうにさらに俯く。
 その光景に、怒りや焦燥感が吹き飛びそうになってしまう。
 あまりの淫らさに。あまりの愛しさに。
 どく、どく……と、また心臓の音が大きくなるのを感じる。
「ほら、あんたも見たでしょ」
 ――霊夢の言葉に、はっと我を取り戻す。アリスはばつが悪そうに、あわてて魔理沙から目をそらして、霊夢を睨みつける。
 霊夢は面白そうに笑う。
「魔理沙はね、恥ずかしいことが大好きなの。今だって、あんたにこうやって見られてるだけでまた……濡れちゃってたんでしょ?」
「……っ……」
「……なに……よ! それもあんたの呪いの仕業なんでしょ!」
「あら、否定はしないのねえ。やっぱりちゃんと見てたんじゃない」
「……く……っ」
 くすくす。
 毎度わかりやすい反応をするアリスに、霊夢は満足して頷く。
「残念。私のお札はとってもエッチに気持ちよくはしちゃうけど、人の性癖まで変えたりはしないわ――それとね。実はとっくに、呪いの効果は切れてるの」

 霊夢は両腕を魔理沙の身体から外す。外れても、魔理沙の脚は閉じない。
 余った手を使って、つつ……と、魔理沙の首筋に指を這わす。
「……んぁッ……!」
 魔理沙は堪えきれず、顔を上げて喘ぐ。
 さらに指を、服の上から、肩に、腕に、指先に。
「んんん……っ」
 びく、びくん。
 ぐちゅ……
 魔理沙が震え、触ってもいない下着の奥から濡れた音がはっきりと響く。
 とろとろと、粘った半透明の液がまたふとももを伝わり落ちる。
「見られてるってだけで、こんなに反応しちゃうんだから」
 また意識が完全に魔理沙に向いていたアリスは、霊夢の言葉でもう一度頭を振って冷静さを取り戻そうとする。
「……だ、だいたい……! あなたが魔理沙の……その、趣味、のことなんて……知ってるわけないじゃないの……! でたらめよ!」
 だから、やはりそれも呪いの効果なのだと。
 アリスは主張する。
「あら、魔理沙のことならあんたよりよほど知ってるけど」
 霊夢は、くいっと魔理沙の顔を抱き寄せて、小さな胸の中に収める。
 人差し指を魔理沙の口元に運んで、唇をつつっと撫でる。魔理沙の口が開く。口の中に指を突っ込んで、舐めさせる。
「私達、そういう仲だし。――ねえ?」
「……」
 魔理沙はその言葉には、俯くだけで、否定も肯定もしなかった。
「そ……そういうって……なによ……」
「見ての通りよ。恥ずかしく苛められるのが大好きな魔理沙と――」
 薄く、冷たく笑いながら、霊夢のもう片方の手が、魔理沙の首元を捕まえ、軽く爪を立てる。
「苛めるのが大好きな私と、利害が一致しただけ。最初はちょっとからかってただけだったんだけどね。反応が可愛いからもしかしてと思ってちょっと本気で苛めてあげたら、魔理沙ったらすっかりハマっちゃって……ねえ」
「……嘘」
「この状況を見てまだ嘘だと思うのかしら。――ああ、そうそう。別に愛がどうこうって話じゃないから、安心していいわよ」
「……! か、関係ないでしょ、そんなことは!」
「そうかしら」
 霊夢は両手を使って、魔理沙の腕、指先、脇、腰と、指先を走らせる。
「んんふ……ぁ……」
 何度も、何度も跳ねる魔理沙の身体。
 愛撫というよりも、くすぐっている程度のタッチでしかない。それを霊夢は執拗に続けていく。
 それでも、魔理沙の下着からは、どこまでも際限が無いかのように洪水のように愛液が垂れ流れ落ちてくる。ぼたり。ぼたり。スカートの上にまで伝わり落ちて、濡らしていく。
「あ……やぁ……もっと、ちゃんと……」
「……っ」
 魔理沙のねだる声を聞いて、アリスはぎゅっと目を瞑る。
 聞いていられない。魔理沙が霊夢の愛撫で感じているような声など、もっと霊夢を求めるような声など聞きたくない。
 だけど、魔理沙のその声を聞いて、アリスは確かに、悔しさだけでなく、全く違う感情が湧きあがってきていることを自覚していた。
 ――自分の今思ったことに、愕然とする。
 やめろ、魔理沙を苛めるな。そう思っていたはずなのに。
 今は確かに、自分が魔理沙を苛めたい、そこにいるのは霊夢ではなくて自分であるべきだ――そう思ったのだ。
 霊夢の手が、ふとももや膝の裏を撫で、軽く揉む。
「あっ! あっ……! ん……ぁっ!」
「凄く感じてるじゃない。見られてるからでしょ? それとも――」
 くにゅ……
「あ、ああああああああぁぁっ……!! んはぁっ! ん……ッ!!」
 霊夢の両手が、服の上から胸の下部を軽く揉むと、それまでよりはるかに激しい反応で、魔理沙は叫ぶ。
 明らかにそれだけで、絶頂に達していた。
 虚ろな目ではあはあと荒い息を吐く魔理沙の耳元に少し口を近づけて、しかしアリスにもしっかり聞こえるような声で、霊夢は言った。
「いつもより凄いのは、見てるのがあの子だからかしら……?」
「……ッ!!」
 びくっ
 その声に、魔理沙はもう一度、達する。

 ――どくん。
「あ……」
 抑え切れない。
 アリスはその瞬間、間違いなく欲情していた。魔理沙の、その姿に。
 魔理沙の反応に。
 かぁ……と一気に身体に熱を帯びていく。脈も、呼吸も、どんどん速く激しくなっていく。
 欲情している。
 魔理沙に。
 魔理沙に。
 愛したい。
 苛めたい。
 確かめるまでも無い。魔理沙が苛められる姿を見て、アリスも間違いなく――濡れていた。
「素直になったみたいね」
 霊夢はアリスの変化を感じとって、微笑む。
「……ぁ……アリス……」
 魔理沙は、とろんとした目で……求める目で、アリスを見つめる。
「ほら魔理沙、よかったわね。ホントはずっと……あの子に苛めてほしかったんでしょ?」
「……」
 目を細め、微かに俯く魔理沙。
 恥ずかしそうに目を伏せはしたが――霊夢の言葉を否定はしなかった。
 そうだ。思えば魔理沙は、ここまでも、霊夢の言葉を一切否定していない。それが、答えなのだ。
「……ま……魔理沙……?」
 どくん。どくん。どくん。
 このまま身体を内側から突き破ってしまいそうと思うほどに、心臓が暴れだしている。
 すい――と、手が前に出た。いつの間にか拘束が解けている。
 ばくん。ばくん。
 一歩前に踏み出す。からだが、とても、あつい。
「魔理沙。ちゃんとお願いしなさい、自分で」
 霊夢は魔理沙の腕を掴んで、耳元に囁く。
「アリス……」
 掠れた声。
 泣いているような、しかし、期待に満ちた声。
「苛めて……いっぱい」
 アリスは、ふらふらと、魔理沙の前に、立った。


「アリス」
 魔理沙の体に手を伸ばそうとしていたアリスに、霊夢がストップをかける。
 ――このとき初めて、アリスを名前で呼んだ。
 小さくため息。
「まだわかってないわね。あんたが魔理沙を苛めるっていうなら、手なんて使ってる場合じゃないでしょ。そんな素敵なモノ持ってるんだから」
 そう言って――アリスの脚を指差す。
 アリスはしばらく怪訝な顔を見せて。
「――ああ。理解したわ」
 頷いて、右足のブーツに手をかけ、それを脱ぎ去る。
 右足を包むものは靴下だけになり、その足を魔理沙のスカートの上に置く。
 もう一度足を上げて、潤んだ視線でそれを見上げる魔理沙によく見せつけたあと、ゆっくり下ろしていき……魔理沙の濡れた下着の上にそっと下ろす。
「……ふ……ぁ……あああぁあっ!!」
 つん、と触れただけで、魔理沙はまたびくびくんと痙攣する。
 その反応に、アリスのほうが驚いて足を慌てて離す。べっとりと粘ついた液が足の裏で糸を引く。
「あ……いや……」
「魔理沙……い、いまので……イっちゃったの……?」
「……ッ」
 羞恥に顔を赤く染めながら――
 こくこくと魔理沙は確かに頷いた。
 そして、目で続きを訴えている。
「……ほ、ほんとに……こんなのが、気持ちいいんだ……」
 ごく。
 魔理沙の表情に、きゅん、とアリスの女性の部分が反応し、ひくひくと膣内が疼く。とろり……と濡れて、魔理沙を欲しがっているのを感じる。
 もう一度足を下ろす。今度はいくぶん強く。
 触れるのではなく、ぐいっと、踏みつけた。ぐちゅっと湿った音が響く。
「あ……んんんあぁ……っ!!」
「気持ちいいの? 踏まれて気持ちいいの?」
「ん……キモチ……気持ちいい……! や、また……またイ……っちゃ……!! あ、あ……ッ!」
「なんていやらしいの――ますます愛しいわ、魔理沙」
 くりっ
 魔理沙がまだ痙攣している途中に、足の指先でぷっくりと膨れ上がり主張している部分を摘む。
「あ、やッ!! イ、イっちゃってるのに、また……う、あぁ、ああああああッ!!! だ、め、つよ……んんーーーッ!!」
 ぐり、ぐり。
 指の付け根から土踏まず、踵にかけて体重をかける場所を少しずつずらしながら、深く踏み込んでいく。
「あッ……あーーーーーッ!! いッ! が……うぁッ! は……ん……ああッ!!」
 喘ぎ声とも泣き声とも悲鳴とも区別がつかないほどの無茶苦茶な叫びになってきても、そして魔理沙の身体がずっと狂ったように飛び跳ねまくっていることも気にせず、何度も体重を変化させ踏み続ける。
「ぁ……は……魔理沙、素敵よ。もっと乱れて。私のことだけ感じて、もっと可愛いところいっぱい見せて……!」
「あぁーーーーーーッ!! んが……ッ!! や! い、ああああッ!!」
「あは……♪」
 楽しげに笑いながら無心に踏み続ける、アリス。
「……アリス。ちょっと落ち着いて」
 ――そこに割り込む、冷静な声。

 はっとアリスは顔を上げる。もうそこにいることを忘れていた、霊夢の声だった。
 少し怒ったようなその顔を見て、高揚した気分が吹き飛ぶ。
「苛めるって言っても、行きすぎは駄目よ。ちゃんと気持ちよくしてあげなきゃ。魔理沙を壊すつもり?」
「――っ。……そうね、ちょっと……我を失っていたわ」
 はあ、はあ……と苦しげに息を吐く魔理沙から、足を離して、もうぐちょぐちょに濡れた足を魔理沙のスカートの上に下ろす。
 ふう……と、霊夢はまた大きなため息をつく。
「まだ私がちゃんと教育してあげたほうがいいかしら?」
「――いえ。もう冷静になったわ。二度と失敗はしない。ありがとう、霊夢。助かったわ」
「……ん。信じるわ。あんたの気持ち。じゃ、私はもう行くわね。お仕置きは十分だし」
 そう言うと、霊夢は、巫女服に手を突っ込んで――いったいどこからなのか――、じゃらりと黒いものを取り出した。
 それを、アリスの手に渡す。
「……あなた……何考えてるのよ……」
「記念日にちょうどいいでしょ」
 ひらひらと手を振る霊夢。
 アリスの手に渡ったそれは、黒く大きい皮製の首輪。そして手錠。
 手の中に収められたものを見て、呆れた目で霊夢を見る。
 それを目にした魔理沙は――怯えとも期待とも取れるような目で、じっと眺めていた。
「その気が無ければ使わなくてもいいわよ」
「――まさか。ありがたくいただくわ」
「素直ね」
 霊夢は笑うと、魔理沙からすっと離れる。
 ふわりと浮き上がって、立ち去ろうとする。

「――待って、霊夢。確認させてもらうわ」
「ん?」
 アリスは片手に首輪と手錠を持って、もう片方の手でポーチから何枚かの葉っぱを取り出す。
 それを……ぱらぱらと、地面に捨てた。
「今朝のあなたの依頼で作ろうとしてた薬だけど……本当はいらない、のよね?」
 それは、先程アリスが摘んでいた木の葉。
 今ここにいるのは、それを採取するためだった。
「さて。何のことか記憶にないわ」
 霊夢は手をひらひらと振って、アリスの様子など気にも留めずにそのまま高度を上げる。
「ばいばい。おやすみ」
「――おやすみ」
 あっさりと、飛び去っていった。
 その後姿を眺めて……アリスは少しだけ、苦笑いを浮かべた。


「さて、魔理沙」
「……ん……」
「さっきはごめんね。……これで私達、二人だけよ」
「……アリス」
「なあに?」
「……急に、恥ずかしくなってきた……っ」
 視線を横に逸らして、開いていた足を閉じて、見えている部分を隠そうとする魔理沙。
 アリスは、あら、と笑いかける。
「なんだ。やっぱりさっきまで呪いがかかってたのね」
「……ん……あ……でも……」
「ん?」
 ぼそぼそと話す魔理沙の言葉を、じっくりと待つ。
 真っ赤になりながらもじもじする魔理沙という、まず滅多に見られないものを眺めて楽しみつつ。
「わ……私の、その、さっきの……は、本当なんだ……」
「……さっきの? 具体的には?」
「……うー。恥ずかしいのとか……苛められるのとかで、か……感じてしまうんだ……」
「そう。それで、いつも霊夢に苛められに行ってたのね?」
「……」
「魔理沙。これからは、私がいるわ。私が、誰よりも貴女を愛してあげる。いっぱい苛めてあげる。もう、霊夢のところには行かないで」
 ぎゅ、と魔理沙を抱きしめる。
 頭をそっと撫でる。
「心配はいらないわ。――ええ、むしろ、私も、魔理沙を苛める快感を知ってしまったから……魔理沙を離さない。誰にも渡さない」
「……」
「大好きよ。愛してるわ、魔理沙……」
 微笑んで、アリスは魔理沙の首に手を回して。
 手に持った首輪を魔理沙の首に通して、がちゃりと金具を閉じた。
「――綺麗。とってもよく似合ってるわ……」
 魔理沙の頬に手をやり、そっと撫でる。
「……ほ、本当に、するのかよ」
「ええ。これは魔理沙が私のモノになった証だもの。嫌だったかしら」
「嫌……じゃ、ない……けど、恥ずかしい……」
「それが気持ちいい」
「……ぅ」
「いいわ。その顔。ぞくぞくするわ……」
 かぷり、と耳たぶを噛む。
「ひんっ……」
「もっと声を聞かせて。壊れないように、優しくたくさん苛めてあげる」
 アリスは、くいっと首輪の鎖を引っ張った。

 日が落ちる。
 ここから二人の世界が、始まる。





 ふわふわと、漂うように帰路を飛ぶ。
「あー」
「あー」
「あー」
 同じような呟きを何度も繰り返しながら。
 霊夢は、つまらなさそうな顔で、ふわふわと飛び続ける。
「またひとりぼっちかあ……なんで私いつもこうなんだろ」
 ふわふわ。
 ふわふわ。
「あー。アレかな。誰だったかに、あんたは苛めるのは最高に上手いけど愛するのは最高に下手だって言われたなあ。あーもう。知ったこっちゃないわよ」
 ぶつぶつ。
 ぶつぶつ。
 ぶつぶつ……






FIN....





【あとがき】

 ああん!
 ほぼ100%エロシーンなのに何故こんなにエロくないのか……
 (/_;)

 こんばんは。村人。でございます。
 マリアリじゃなくてアリマリ。
 こんなの魔理沙じゃない! って言われそうです。
 ごめんなさい。そう思います。いやあ……魔理沙がMだったらどうなるんだろうと思ってたらこんなことに!?

 ……これからもよろしくおねがいいたします。
 マリアリ!